私たちが住む、島根県、山陰地方は中国山地の北側に位置し、厳しい気候条件や常に日陰のイメージを伴う地域である。しかし、そこには、古代より独特の風土が育んだすばらしい自然があり、歴史と文化、伝統に富んだ地域である。島根県には全国に誇れる歴史ある観光地、神秘的で情緒あふれる地域、歴史的な建造物、文化遺産、自然遺産、名勝地、温泉地、豊かな海の幸、山の幸など恵まれた資源がある。

島根の豊富な観光資源、特色や強みを最大限に生かし、観光振興と地域づくりは県にとっても重要な取り組みとなっている。

 

何年か前に、県議会の委員会調査で沖縄を訪れた時である。旅行者や修学旅行の生徒たちで賑わう繁華街で、タクシードライバーの男性に「沖縄は本当に観光客が多いですね。うらやましい限りだねえ。」と言うと、意外な言葉が返ってきた。「確かに観光客は増えたけど、そんなに地元は儲かっていませんよ。」・・・その理由は観光産業を取り巻く競争激化だという。大手の旅行会社や航空会社のキャンペーンで沖縄ブームに火が付くと、本土資本が一気に参入し、勢力を伸ばして、もともと沖縄にあった地元企業が隅に追いやられたとのこと。その結果、いかに沖縄が観光客で賑わおうとも、地元に金が落ちない経済構造に変わったようである。

つまり、この沖縄の例が島根県に即応するとは考えにくいが、島根県は本質として何を目指すのかということだと思う。目指すべき大事なことは、県民と地域のための観光振興であり地域づくりである。具体的には、豊かな県民生活の実現である。観光産業は、宿泊や飲食にとどまらず、幅広い産業への波及効果がある、いわゆる総合産業である。経済波及効果や雇用創出効果が大きいことから、都市部のみならず産業基盤が脆弱な離島・中山間地域にあっても取り組んでいく大事なテーマである。

 

今、国内外からの観光入込客延べ数を巡っては、全国各地の観光地で争奪戦が巻き起こっている。60年に一度の平成20年からの出雲大社の大遷宮では、全国各地から溢れんばかりの観光客が島根県へ押しかけていた。その大遷宮が終わり、島根県を訪れる観光入込客延べ数は2017年で3,225万人であり、4年連続の減少傾向にある。減少の要因は出雲大社の平成の大遷宮効果が薄れてきていることだと分析されている。大行事の後、観光客が減少するのは無理からぬことだと思う。

今は、目先の全国的な競争原理に巻き込まれることなく確固とした覚悟をもって、島根の観光資源をいかに、末永く生かし、活用していくかである。

この豊かな自然、資源を県民の宝として大切に守り、子々孫々に引き継ぐことは、今を生きる我々の責任である。そのためには、将来に亘り、若い世代が仕事につき、結婚し、安心して子育てができる地域づくり、人づくりが重要であると考える。

そして、今、日本は観光立国を国の重要施策に掲げ取り組んでいる。今後、島根へ増加が見込まれる外国人観光客に対する対策として、情報発信の整備、ゆったりと寛げる宿泊所の充実、交通の利便性の向上などの県内の受け入れ強化については、官民が更に一層協力して取り組むことが必要である。我々政治家も島根県が県民にとって豊かな観光立県となるようしっかりと汗をかき取り組む覚悟である。